昔むかし、遥か昔
それはまだ人が「心」や「魂」についてあまり考えなかった時代のお話。
人は因果に縛られ、殺しあい、上下が永遠に決められ、
血筋を残すためだけに様々な命が時代に火花を散らしていた。

そんな時代のお話。


人は避けては通れない宿命を「カルマ」と云い
人の定めとしてカルマを受け入れては命を育むといった
尊い血を間違った形で延々と大地に流し込んでおりました。

しかしそんな中、この「カルマ」の仕組み...
本当の「カルマ」の意味にフト気がついた人達が
二人...三人と、
血の匂いがしみついた世界に現れ始めます。

「仏陀」は、それを天上より見つめていました。

いまここに真実を説く時が来た事を悟った仏陀は
天の園に生えた菩提樹の木から1葉、また1葉と
葉を優しくもぎ取りますと、フゥと息を吹きかけて

地上へと下ろしました。

それは答えに近づいたものだけに送られた「導きの葉」
真実に気がついた者達だけが受け取る事が出来る物でした。
葉を受け取った生きとし生ける存在は
今こそ真実を知る為にと、
葉の導きに従い仏の光臨する丘に集いました。


日暮れが近い優しい太陽の色が虹色になり、心地よい鈴の音を空から運んで来たかと思うと、香しい花の香りが漂い始め、そしてどこからともなく声が聞こえます。

私の呼びかけに答えてくれてありがとう。
私は今ここにいます。全ての人の目の前に。

仏陀は美しい夕日と共に現れました。

フワリ空から舞い降りたかと思うと現れた蓮の花の台座にゆっくりと腰掛け
そしてそこに集まった人々に1つの問いを投げかけたのです。

人は
個々の世界で様々な行動を繰り返し、知識を蓄えて「悟り」に近づいていくのですが
実は簡単に「悟り」に導かれるシンプルな思考があるのです。

シンプルで、どの世界の人々にも悟りを与える事の出来る言葉の響きとは
一体どういう響きなのでしょうか?

一体それはどういう風にできていて
それは一体どういう音で宇宙に響き渡っていくのでしょうか...。

仏の元に集まった民たちは一斉に考え始めました。
しかし答えは簡潔に出る筈もなく、時間だけが過ぎていきます。

たまりかねた民達はとうとう仏にその問の答えを求め始めました。

すがる様な民の声が丘一杯に響き渡った時、仏陀は目をゆっくりと開けて
皆にこう言いました。

では教えましょう。
その音の音色は()

空の音色、それは「全てが()である」という事。

何も無いのに全て有る。
世に響く音はただただ
()という事なのです。

簡潔なその答えに民達は首をかしげます。
クゥ 空、カラ.......
民達は考えますが、何故(空)が悟りを与えるのか良くわかりません。
気がつけば太陽は西に落ち始め、月が東から顔をのぞかせ始めました。
そして 月が丁度丘の上に登ったときの事です。

よければ...仏に代わり私が教えて差し上げましょうか...。

闇夜に凛と響き渡る声。
すると月の光が溢れんばかりに降り注ぎ、優しい光と共に
観自在という菩薩様が現れました。

菩薩様は民の頭上をふわりと流れ仏様の隣に御座りになります。

仏はそれに笑みで答え、ゆっくりと目を閉じました。

それでは私がお話ししましょう。
観自在菩薩は語り出します。