男を覆う音の渦が光の渦に変容し
その光がまるで炎の様にうねり始め
男を飲み込みます。

そして光の中で男は
仏へと生まれ変わりました。

荒々しい憤怒の形相の中に
優しさを感じる
とても不思議な仏と化した男は
その場所集う皆に合掌し
その場を離れ、仏のあるべき場所へと
旅立ちました。

皆、仏となりうる。

どのような生を歩んだとしても
葛藤があったとしても
自身の延長線上
その先に仏が在るという事を
光をめざし信じて進む事。

それこそが、この世を限りなく光に近い音で満たし
この地そのものをも空へと導く術と成るのだ。

集った皆は男が仏と転じた際に溢れた仏の光に触れ
同じ思いに至る事が出来たのでした。



さて、そろそろ
皆さんの在る次元、時代、場所に戻る時が来た様です。

あなたたちは、今ここで経験した事を沢山の人に伝えなくてはいけません。
必ず、思い出してください。
どのような姿、型でもかまいません。あなたの感じた光、音、空を
伝え広げていってください。


私は、次元を超越して存在します。
姿、形を変えてかならずあなた方を守り支えます。

仏陀は手から数多の光の玉を生み出し
光の玉は皆の身体へと取り込まれていきました。


あとは、まかせましたよ皆さん。
さあ、目覚めなさい。





そうして、集いの丘にあつまった皆は
本来在るべき場所へと戻りました。

ある者は書物として丘での経験を綴り
ある者は絵として

またある者は教典として
集いの丘での出来事を記録し
伝えました。


動物はその教えを地下世界へと伝え
身体そのものにこの教えを組み込めないかと
地球の女神に相談しました。

女神は動物の願いを聞き入れ
この地球で身体を持つ者すべてが
この教えに触れる事ができるようにと
その伝言役に植物達を選びました。


植物達は、女神の願い通り
今でも丘での出来事を
伝え続け

その教えを体現し続けるかの様に
光に向かい伸び続けていると云う。


「へぇ、、凄い話だね。僕には未だ解らないや〜。」
語り終えた巨木に小リスは語りかけました。

じゃぁいつか僕たちも光になっちゃうの?」
「さあ、、、どうだろうね、、、。
私は1000年ほど、こう、手を光に伸ばし続けているが
未だに木を続けておる訳じゃからのぉ」
私たちは女神からそう伝えられ、こうやって
話を伝えるのが役目じゃから、、、
伝え終えたら、、もしかしたら光になれるかも
しれないねぇ、、、。」

リスは木の枝で遊び始め
いつもの見慣れた光景が戻って来た。

何も無い虚空は闇ではなく光が有り
光の中に全てが在ると云う。

どんな在り方でも構わない
どの先にも必ず得るものがある。


内なる音を頼りに光に手を伸ばし続ければ
私たちもいつかまた、あの丘で皆が経験したように
全てを体感出来るのだろうか。

巨木はそんな思いの木霊を幹に響かせながら
そっと目を閉じた。

 あとがき

10年くらい放置してた作品を夢の啓示を経て書き終えました。これは自分なりの
般若心経の解釈を元に作っていた物語でしたが、どうしても終わりが紡げなくて放置していたのですね。でも、拘りを捨てて紡ぐ事でやっと書き上げる事が出来たかなぁと思いました。  

2020年4/23 桂榊